「不妊ルーム」

Archive for 12月, 2016

気持ちは先取りできない

「不妊ルーム」で妊娠された女性で、
ツアーコンダクターの仕事をしている方がいました。
彼女は、月に2回ほど来院されましたが、
その度に、基礎体温表には訪れた国名が、
インド・ロシア・エチオピアなどと書き込まれているのです。
私は、この人は、うちへ来る度に、
世界中のあちこちを巡ってきているのだと思うと、
なんだかとても不思議な気持ちになったものです。
そして、彼女に「不妊ルーム」で、妊娠反応が陽性と出たのです。
この場合、私は、流産予防の漢方薬を処方しますので、
彼女は引き続き来院されました。

そして、しばらくすると、
「妊娠したことは嬉しいのですか、毎日がとても単調なのです」と、
しょんぼりしたような口調で言うのです。

妊娠が判ると、機上の仕事はできなくなり、
会社内でチケットの手配などといった仕事になるそうです。
「私は、世界中を飛び回ることが、仕事でもあり、生き甲斐でもありましたから、
こうしたデスクの上の仕事というのは、なんだか性に合わない気がするのです」と、
嘆かれるのです。

妊娠したくて通院されていたのですから、
当面の希望は叶えられたのですが、
ひとつの希望が叶えられるということは、
なにかが犠牲になることかもしれません。

 彼女が、これから出産し母親になると、別の感情を抱くかもしれません。
「出産してこの子を抱いたときの気持ちが過去にわかっていたなら、
もっと早く赤ちゃんを望んでいたでしょう」という女性を、
私はしばしば耳にします。
人は、思いを先取りすることはできないのです。

私が「不妊ルーム」で女性をフォローアップするにあたって、
真っ先に着目したのは基礎体温表、
次に注目したのが排卵日検査薬という2つのツールでした。

そして私は今、この基礎体温表というものに強い危機感を持っています。
なぜなら、患者さんのお話を聞いても、
「基礎体温表に見向きもしてくれない」
「基礎体温表なんかいらない」
という不妊治療をおこなう医師が増えてきているからです。
中には医師が自ら患者さんに基礎体温表を渡しておきながら、
実際にそれを丁寧に記入してきても、
その基礎体温表に見向きもしないというのです。
一体これはどういうことなのでしょうか? 

実は基礎体温表と日本人女性は、切っても切れない関係にあるのです。
基礎体温表そのものは、アメリカで開発されたものです。
そして基礎体温表は、妊娠ではなく、
避妊をするためのツールとして使用されてきたのです。
要するに基礎体温表を見て、
排卵日前後と思われる期間のセックスを避ければ、
避妊ができると考えられたわけです。
ところが、アメリカで経口避妊薬ピルが普及してくると、
基礎体温表は瞬く間に廃れてしまいました。

そして太平洋戦争の後に、日本に進駐軍がやってきましたが、
彼らが持ち込んだものの中に、
チョコレート、チューイングガムなどとともに、基礎体温表があったのです。
そして日本人女性が基礎体温をつけ、
産婦人科の医師がそれを医療の現場に取り入れるという、
いわば「和魂洋才」の診療が、今日まで連綿と続いてきているのです。

人間にとって、思い込みは怖いものです。
負けると思って出た試合は、戦う前から負けているようなものです。
よく自己暗示といいますが、スポーツ選手では
イメージトレーニングを大切にしている人がたくさんいます。
私は妊娠においても、同様のことがいえるような気がしています。

「自分には赤ちゃんができないのではないか?」
といったマイナスの自己暗示は、
本来備わっている妊娠力が低下していまうことにもなりかねません。
何事においてもそうですが、気持ちがネガティブだと、
なかなかよい結果というものは生まれないものです。

私のクリニックに訪れる方にも、私のアドバイスに、
いちいち「できません」「無理です」と言う方がいます。
そういうネガティブ思考の方の場合、
妊娠までの道のりが遠いなと思てしまいます
また、そういう人は友人たちとの会話でも
「そんなのムリじゃない? やめたほうがいいよ」
と言っているかもしれません。
ムリかどうかなんて、
やってみなければわからないことが多いのです。

このようなタイプの人は、自分に対しても
ネガティブな自己暗示をかけてしまいます。
他人の発言に「ムリ」というのは、
自分は前に進めそうにないから
「あなたも私と同じところにいて」
という心理が隠されているかもしれません。
へんな自己暗示でせっかくの妊娠力を低下させないように。

できると思ったからといって、
かならずしもできるというものではありません。
しかし、できないと思う必要はないと思います。
「自分には赤ちゃんなんかできっこない」などと、
後ろ向きの言葉を、自分に投げかけることはやめにしましょう。

精子と卵子の出会いを高めるコツ

いまから十数年前、私は『妊娠レッスン』という本を出版しました。
それまで、赤ちゃんができないと不妊治療しかないと思い込んでいたカップルに、
〝不妊治療だけが妊娠に至る道ではない〟という強いメッセージとともに、
より妊娠に近づくための3つの方法を提示し、多くの方の支持をいただきました。
また実際に、読者から「妊娠しました!」というお手紙や
メールが、私のもとに数多く届きました。

3つの法則とは、

1・基礎体温表をつける 
2・排卵日検査薬を併用する 
3・排卵日前後にセックスの回数を増やす 

というシンプルなものです。
この3つを有機的に結びつけることによって、
精子と卵子の出会う確率を高め、妊娠にグンと近づくことができるのです。

当院の「不妊ルーム」では、医療機関として漢方薬を処方したり、
飲み薬の排卵誘発剤などを使うこともありますが、
基本的に行っているのはこの〝3つの法則〟です。
3つの法則を実践することによって、
体外受精や人工授精などの不妊治療を行っても妊娠できなかった方が、
数多く妊娠されています。

35歳からの妊娠戦略

自分は自然妊娠でいくべきか、あるいは人工授精や
体外受精を視野に入れるべきか……
こうした妊娠へのアプローチ法に関しては、女性の年齢が高くなるほど、
私は「Yの字思考」という考え方がたいせつになってくるように思います。
「Yの字思考」とは、妊娠へのアプローチにAとBの2つのルートがあった場合、
AとBのどちらのルートを進むかを早めに決定しようという考え方です。

不妊治療で医療機関を訪れた場合、
一般的にはステップアップ法という形で進んでいきます。
まず半年から1年間タイミング法を行い、それでも妊娠しなければ、
人工授精へとステップアップし、人工授精を通常5~6回行います。
それでも妊娠しなければ、体外受精などの高度生殖医療へと
ステップアップするのが一般的なルートです。

しかし、女性の年齢が高い場合において、
たとえば人工授精に多くの時間を費やしてしまうようなことがあると、
体外受精にエントリーしても妊娠しにくくなってしまいます。
女性の年齢が高くなればなるほど、
体外受精の妊娠率が低下するという事実があるからです。

そこで「Yの字思考」という考え方がたいせつになってくるのです。
Yの字のように、ものごとの進路をAorBの両ウィングで考える――
たとえば、あなたが不妊治療を積極的に視野にいれるのであれば、
体外授精などの高度生殖医療への期間をあまり長くおかないことを指します。
通常のステップアップ療法に対して、私はジャンプアップということを、
勧めることも多くなってきました。
すなわちタイミング法が上手く行かなかったカップルに、
人工授精をスルーして、体外授精にエントリーする、
あるいは、不妊治療というものを体外授精からスタートする、
こういったやり方を、私はジャンプアップと言っています。




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