「不妊ルーム」

Archive for 9月, 2014

多くのかたは、子どもを望んで「不妊ルーム」に来院されます。大変印象深いケースですけれども、非常に面白い方もおられるのです。かなり前になりますけれども、ある女性が「不妊ルーム」に相談にこられました。ところがその女性は、椅子にすわると、「私は子どもはいりません」と言うわけです。それで私が不思議に思って、「子どもがいらないのになぜ、「不妊ルーム」にくるのですか?」と聞きました。彼女が言うには、「私は子どもは欲しくないんだけれども、旦那が子ども、子どもってうるさいのです」というわけです。それで、仕方なしに背中を押されて相談にきた。そういう話なんです。それで、ご本人の検査、ご主人の精液検査を行いましたが、何ら問題となる所見は出てきませんでした。想像するに、”子どもは欲しくない”という気持ちが、妊娠にネガティブに働いているのではなかろうかと、思ったわけです。何も問題がないわけですから、2〜3ヶ月で、その方は妊娠反応陽性が出たわけです。それで私が「あなたは妊娠していますよ」と言いますと、返ってきた言葉が、「ああ、そうですか」そして、その次に出てきた言葉が「これで、フラメンコの稽古はお休みですね」とそういった次第でした。いわゆる感慨とか、そういった様なものがまったく感じられなかったんです。ところが、その女性というのは、当時クリニックからそんなに遠くない所に住んでいらしたようで、2年くらい経って、たまたまその女性を駅前で私は見かけたわけです。そうすると、2年前とは全く別人になっているわけなんですね。子どもが可愛くて、可愛くてしょうがないと。ちょっとでも歩くと、すぐに追っかけて、「危ないでしょう、○○ちゃん」と言っている。全く同じ人だと思えない。そういった経験も「不妊ルーム」ではしています。

42歳で妊娠された女性の言葉

「不妊ルーム」は、開設してから数年の間、フォローアップをする女性の年齢を40
歳未満としていました。それは、当時は内科医である私が、40歳以上の女性を、妊
娠という目的に向かってナビゲーションしていく自信がなかったことも正直ありまし
た。

その後、フォローアップを希望される女性が増えるにつれて、また「不妊ルーム」も
いろいろな工夫を行ったことによって、妊娠は増えていきました。それでも、年齢制
限の撤廃にはなかなか踏み切れませんでした。きっかけになったのは、ある女性の経
験です。

かなり古い話になりますが、38歳で、二人目希望の方が見えました。当時は、6ヶ
月間フォローアップを行って妊娠に至らない場合、不妊治療へのステップアップをす
すめるということを基本にしていました。それは、「不妊ルーム」で半年間フォロー
アップをして妊娠しない場合、その後の妊娠率が低下することが経験的にわかってき
たからです。

そして、彼女に不妊治療をすすめました。しかし、彼女はキッパリと、「不妊治療を
受けるつもりは一切ありません。このままフォローアップをお願いします」というこ
とでした。どれだけ時間が経っても、彼女の姿勢は一貫していました。そして、3年
8ヶ月通院された結果、妊娠反応「陽性」が出たのです。彼女は42歳になっていま
した。

彼女から、無事女の子を出産したというメールをいただきました。そのメールの中
に、
「子供が欲しいと思う気持ちに年齢はありません。どうか子どもを望むすべての女性
を導いてください」と書かれてあったのです。このことがきっかけとなって、私は”
年齢制限を撤廃”したのです。その後、DHEAサプリメントなどが味方となり、40歳
以上の女性も安定的に妊娠されるようになりました。

そんないろいろなエピソードを、昨年末に出版した『35歳からの妊娠スタイル』
(主婦と生活社)に書きました。お読みいただければ幸いです。

体外受精の妊娠率の分母と分子

まずは妊娠率の分母について考えてみたいと思います。

その妊娠率の分母を理解するには、体外受精のプロセスを思い出してください。すな
わち、分母の母集団を「採卵」あたりとするのか、それとも「移植」あたりとするの
かによって、妊娠率は当然大きく異なります。なぜなら、採卵を行っても移植までの
段階で数多くの卵子がドロップアウトするからです。

また、受ける側としては、排卵誘発を行った段階から、自分はもうすでにIVFにエン
トリーしていると感じており、医療機関側との温度差が感じられる面も否定できませ
ん。

 さらにその妊娠率の分母を複雑にしているのは、移植する胚の数です。日本産科婦
人科学会では、そのガイドラインで体外受精1回当たりの移植胚は3個までとしてい
ますが、これは必ずしも守られているわけではありません。移植する胚を多くすれば
妊娠率は高くなりますが、多胎が生じる可能性も高くなります。逆に多胎や品胎(三
つ子)を避けるために2個あるいは1個(単一胚移植)しか移植しない方針をとって
いる医療機関もあり、同じ土俵での議論が難しいわけです。

 分子については、その妊娠の判定を尿検査での妊娠反応(化学的妊娠)とするの
か、超音波検査での胎のう確認(臨床的妊娠)にするのかでも変わって来ます。化学的妊
娠の場合、妊娠していないのに妊娠反応陽性になるケース(偽陽性)もありますし、
子宮外妊娠のケースもあります。医療機関によっては、胎のうの確認および胎児心音
確認をもって妊娠と判定するところもあり、各医療機関で統一されていないのです。

   レッスン:HPの体外受精の妊娠率は、眉つばをつけて見る

妊娠できない思い込み症候群

精液検査を1回受けて結果が悪いと、自分は男性機能が劣っているのだと思い込んで
しまう方がいます。こういう方は、再検査を受けることをおすすめします。精液検査
は、体調や採取の状況によって大きく変動するのです。

女性も黄体ホルモンの検査で値が低いと、自分は黄体機能不全と思い込んでしまう方
がいます。黄体ホルモンの値も生理周期とのかねあいで大きく変動します。この場合
も、検査を受けた医療機関の医師に再検査をお願いしてみましょう。

ある医療機関で、片方の卵管が閉塞し、もう片方も通りが悪いといわれた患者さんが
いました。その方は、自分たちには自然妊娠はありえないと思い込んで、別の不妊ク
リニックで体外受精を4回受けましたが、妊娠には至りませんでした。体外受精を受
けた医療機関には、子宮卵管造影の設備がありませんでした。私は再度、卵管の通過
性を確認するため、子宮卵管造影の設備のある医療機関に検査を依頼しました。その
結果、卵管の通過性に問題がないことが分かりました。

それから2か月後、この女性は妊娠したのです。この方も通常の自然妊娠はのぞめな
いと、セックスレスに近い状態でした。卵管の通過性に問題がないとわかったこと
で、妊娠へのモチベーションが高くなったのだろうと思います。そして、ホルモンバラン
スもよくなったのかもしれません。

私はこれまでに8,000組近いカップルの不妊相談に応じてきました。その経験から言
えば、自然妊娠であれ、人工授精であれ、あるいは体外受精であっても、産まれてく
る子どもには、なんの違いもないということです。子どもは愛情のあるカップルのも
とに授けられるべきであり、このことが何よりも大切なことなのです。

体外受精で子どもを授か?ある女性は、「通常の妊娠は、尿検査や婦人科を受診し
て妊娠を知ると思います。私はあなたが卵の時から知っているのよと、いずれ言うつ
もりです」と、胸をはりました。

事実、体外受精で子どもを授かった女性は、体外受精で授かったことを、周囲にカミ
ングアウトする人が、年を追うごとに増えています。体外受精が市民権を得ているか
らだと私は思います。




「不妊ルーム」