「不妊ルーム」

不妊治療をやめるとき

不妊治療をいつやめるかというのは、ほんとうにむずかしい問題です。
これは、不妊治療を10年間続けた45歳の女性からのメールです。
私がメールで不妊治療からリタイアすることをすすめたことに対して、
お礼を書いてきてくれたのです。

   誰かにそう言ってほしかったのだと思います。
   ここまで治療をがんばってきた私たち夫婦には、
   とても自分たちで踏ん切りをつけることができなかったでしょう。
   ふり返れば、私たち夫婦には桜の花が美しいと感ずる
   心の余裕もありませんでした。

赤ちゃんがほしい、この切実な願いをかなえたいと
不妊治療に足を踏み入れ、身体的精神的苦痛を味わい、
経済的負担を強いられているカップルはたくさんいます。
不妊治療はオール・オア・ナッシングであり、
どんなにがんばっても赤ちゃんに恵まれないカップルはいるのです。

不妊治療を続ければ続けるほど、
赤ちゃんへの思いはつのると思いますが、
いつかは決断をしなくてはならないときもきます。

不妊は、その人の人生観にかかわる問題でもありますが、
どうしても赤ちゃんができなければ、
赤ちゃんのいる生活がすべてではないと
割り切ることも必要になってきます。
不妊治療をこれから始めるという方は、
そのことも夫婦で確認し合うことがたいせつだと思います。

 ちょっとがっかりするような、ホッとするようなお話をしましょう。
両方に不妊の問題がないカップルの場合、
1回の生理周期あたりの妊娠率は15~30パーセントといわれます。

 ところが、同じ哺乳類でもっとも人類に近いといわれる
チンパンジーで70パーセントが妊娠します。さらにマウスとなると、
排卵された卵子のほとんどすべてが受精して
子宮内で発育することがわかっています。
つまり人間は、妊娠しやすい生き物ではないのです。

 何もチンパンジーと比べなくてもと思うかもしれませんが、
わざわざこのような例をあげたのは、子どもが欲しいのに妊娠しないと、
すぐ「不妊症」だと思い込んでしまう人がたくさんいるからです。
でも、夫婦ともまったく不妊の原因がないカップルが、
排卵日に合わせてセックスをしても、半数以上は妊娠しないわけです。
まずは、肩の力を抜いて深呼吸してみましょう。

人間にとって、思い込みは怖いものです。
負けると思って出た試合は、戦う前から負けているようなものです。
よく自己暗示といいますが、スポーツ選手では
イメージトレーニングを大切にしている人がたくさんいます。
私は妊娠においても、同様のことがいえるような気がしています。

「自分には赤ちゃんができないのではないか?」
といったマイナスの自己暗示は、
本来備わっている妊娠力が低下していまうことにもなりかねません。
何事においてもそうですが、気持ちがネガティブだと、
なかなかよい結果というものは生まれないものです。

私のクリニックに訪れる方にも、私のアドバイスに、
いちいちできません「無理です」と言う方がいます。
そういうネガティブ思考の方の場合、
妊娠までの道のりが遠いなと思てしまいます。
また、そういう人は友人たちとの会話でも
「そんなのムリじゃない? やめたほうがいいよ」
と言っているかもしれません。ムリかどうかなんて、
やってみなければわからないことが多いのです。

このようなタイプの人は、自分に対してもネガティブな
自己暗示をかけてしまいます。他人の発言に「ムリ」というのは、
自分は前に進めそうにないから「あなたも私と同じところにいて」
という心理が隠されているかもしれません。
へんな自己暗示でせっかくの妊娠力を低下させないように。

近年の婦人体温計の進歩

 水銀柱体温計の時代にくらべて、
近年の婦人体温計の進歩には目を見張るものがあります。
検温時間がわずか10秒と短いのみならず、
ボタン1つで日々の基礎体温データを
スマートフォンに転送することができるのです。

また、便利な基礎体温表アプリもたくさん登場しています。
オムロンなどの最新の婦人体温計は、専用アプリとセットになっていて、
基礎体温が自動的にグラフ化され、生理周期などの情報を入力すれば、
排卵日が近いことも知らせてくれる仕組みになっています。
スマホのアプリであれば通勤中の電車の中でも気軽に確認ができますし、
スマホは毎日携帯しますから、お守りのような存在かもしれません。

 しかし、そんなデジタル時代にあっても、
紙の基礎体温表をつけることの利便性は色あせません。
数ヶ月分をひと目で見渡せる一覧性や、
手軽に書き込みができる便利さ、
そして医師に見せて相談する場合は、
紙の基礎体温表が勝っていると思います。

 排卵日前後に、なるべく多くセックスをするというのはおすすめの方法です。
しかし、排卵日がプレッシャーになる状況であれば、
いったんそこから離れて自然な気持ちに任せてみるのも立派な治療です。

 女性も男性も子作りのためだけにするセックスを
「楽しいもの」「愛し合うための行為」とは思えないものです。
目的のはっきりしたセックスばかりで、お互いのことを
「妊娠するために必要な存在」としか見られなくなってしまっては大変です。
 そもそも女性は、排卵が近づくと
セックスをしたいという欲求が高まる女性ホルモンの分泌が上昇します。
人間も動物ですから、種を保存するために
妊娠しやすい時期に性欲が高まるのはごく自然なことです。

Lesson:自然の欲求に任せたセックスは妊娠しやすい




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