「不妊ルーム」

最近の新しい知見として、甲状腺ホルモンのコントロールを精密に行うと、
妊娠率が上がることが注目されています。

ここではそのメカニズムをちょっと考えてみます。
甲状腺ホルモンは、”元気の源ホルモン”と言われるように、
人間のアクティビティーを高める作用があります。

バセドウ病という名前を聞いたことがあると思いますが、
この病気は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
その結果、運動もしていないのに汗をかいたり、
動悸がしたりといった症状が現れます。
ですからバセドウ病の患者さんでは、
甲状腺ホルモンを抑えるような薬を使います。

一方甲状腺ホルモン分泌が少ない甲状腺機能低下症のような状態では、
女性の卵子の成熟がうまくいかないことがわかってきました。
甲状腺ホルモンが充分に満たされている状態が好ましいのです。

実際の診療では、甲状腺ホルモンとともに、
脳下垂体-視床下部から分泌される
TSH(甲状腺刺激ホルモン)ンの値を指標にします。
このTSHを厳格にコントロールすることが妊娠への近道なのです。

実際「不妊ルーム」でも、甲状腺ホルモン製剤を用いて、
甲状腺ホルモンコントロールするようになってから、
妊娠される方が増えてきました。

性急な不妊治療はNGです

妊娠とはまったく関係ない一般論を言っているように聞こえるでしょうか? 
でも、そんことはありません。
どうも私には、今どきの「急がば急げ」の不妊治療が、
生活の中から、あなたのうるおいを奪ってしまう気がしてならないのです。

■自分は不妊専門の医療機関に通っているのですが、
治療のステップアップが早そうで、
今すぐに人工授精や体外受精をすすめられたらどうしようか、
本当に悩んでいました。
先生もお忙しいせいかほとんど話を聞いてくれません。
でも、今すぐに高度生殖医療を受けるのはやめようと心に決め、
その代わり心と体を妊娠しやすい方向に持っていこう、
何も急ぐ必要はないと思ったら、なんだか気持ちがスッキリしました。■

実際、不妊治療の医療機関には、型どおりの診察と、
テンポの速いステップアップで治療を行うところが少なくないようです。
患者さんが治療のテンポについていけなかったり、
ステップアップに躊躇していることに、
先生は気付いてくれているでしょうか? 
急いだからといって、いい結果が必ず出るものではありません。
もっとじっくり、ときには回り道をすることが、
案外早道だったりするのが「妊娠」です。

「うさぎとかめ」のお話がありますが、現在の不妊治療は、
おおむね「うさぎ」のようです。
検査、治療とポンポンと前へ進んでいきます。
直線コースのレースであれば、絶対にかめはうさぎに勝てません。
ところが妊娠というのは、28~30日周期の
トラック競技のようなもの。かめがゆっくり歩いても、
走ってきたうさぎがあなたのうしろにいるかもしれません。

慌てず急がず、のんびり歩いていくことも考えてみませんか? 
うるおいのある生活を楽しむことで、気分が明るくなることのほうが、
妊娠によい効果をもたらしてくれることも多いのです!

不妊治療をやめるとき

不妊治療をいつやめるかというのは、ほんとうにむずかしい問題です。
これは、不妊治療を10年間続けた45歳の女性からのメールです。
私がメールで不妊治療からリタイアすることをすすめたことに対して、
お礼を書いてきてくれたのです。

   誰かにそう言ってほしかったのだと思います。
   ここまで治療をがんばってきた私たち夫婦には、
   とても自分たちで踏ん切りをつけることができなかったでしょう。
   ふり返れば、私たち夫婦には桜の花が美しいと感ずる
   心の余裕もありませんでした。

赤ちゃんがほしい、この切実な願いをかなえたいと
不妊治療に足を踏み入れ、身体的精神的苦痛を味わい、
経済的負担を強いられているカップルはたくさんいます。
不妊治療はオール・オア・ナッシングであり、
どんなにがんばっても赤ちゃんに恵まれないカップルはいるのです。

不妊治療を続ければ続けるほど、
赤ちゃんへの思いはつのると思いますが、
いつかは決断をしなくてはならないときもきます。

不妊は、その人の人生観にかかわる問題でもありますが、
どうしても赤ちゃんができなければ、
赤ちゃんのいる生活がすべてではないと
割り切ることも必要になってきます。
不妊治療をこれから始めるという方は、
そのことも夫婦で確認し合うことがたいせつだと思います。

進んで年をとらない!

女性のほうが年を気にするからでしょうか? 
私は患者さん(特に女性の)とお話ししていて、
とても気になることがあるのです。
それは、自分の年を必要以上に
気にしすぎるきらいがあるということです。

「不妊ルーム」に来られた方には、
問診表に生年月日と年齢を書いていただくので、
私にはその女性の年齢が分かります。
そこで「あなたは35歳ですね」と聞くと
「今年36になります」と答える人が少なくないのです。

その人は誕生日の前日までは、まちがいなく35歳なのです。
なぜ自分から進んで年を取ろうとするのでしょうか? 
こういう方は、35歳の年のほとんどを、
36歳の気分で過ごしているのでしょうか? 
ネガティブな考え方だと思いませんか?

たしかに妊娠が可能な年齢には確かに限りがあります。
そのことが、女性の気持ちを焦らせるのでしょう。
その気持ちは男性には分かりづらく、
夫婦の温度差の原因の一つかもしれません。

しかし、慌てたからといって妊娠できるものではありませんし、
気持ちが焦れば焦るほど、妊娠は逃げていってしまいます。
こういうときこそ、ポジティヴ思考が大切です。
「まだ35歳、まだまだ大丈夫」と自分に言ってみましょう。
そして進んで年を取り、自分を追い詰めるのは、もうやめにしましょう。

現代の女性は妊娠しにくい

現代の女性は、明治時代や大正時代などの女性に比べると、
妊娠しづらい状況にあるという、ちょっとがっかりするような、
ほっとするようなお話をしたいと思います。

それは現代がストレス社会だからということもありますが、
もっと生物学的な理由があるのです。
少し考えてみましょう。
明治、大正時代においては、女性は若くして結婚し、
子どもが5人、10人ということもまれではありませんでした。

そうした時代にあっては、女性が50歳近くになっても、
子どもを産むことができたのです。
何故でしょうか?

子供をたくさん産んだということは、
妊娠している期間が長かったと言うことです。
妊娠中は生理がありません。
そのため卵巣の中の卵子は休眠状態になります。
ですから卵子の数も減りませんし、そんなにエイジングもしないのです。
年齢より若い卵子がたくさん存在していますので、
高齢になっても妊娠ができたわけです。




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